今回のタイトルの言葉は、
昨日アトリエの後、稲垣君と話していて僕の口からふと出たものだ。
なるほど、と自分で気がつく。
また場について話し合っていた。
ここでもしょっちゅう書いていることだけど、
場に入り、場の中で自然な適切な振る舞いが出来る人はほとんどいない。
僕から見ていると、作家たち以外ではみんな、どこか不自然でぎこちない。
どこかによどみがある。それから、鈍いというか、遅い。
スピードに乗りきれない。
これは、誰かだけではなく、ほぼみんなそうだ。
こころや身体の振る舞いが汚いとまでは言わないが、美しくない。
人間は不完全な存在だ。
なかなか美しい振る舞いができないのはしかたない。
でも、なぜそうなるのか、そこに気がつくことが大切だ。
何度も書いて来たし、話してもきた。
この問題は人間が自然であることはどんなことか、
というとても深い部分と繋がることだ。
場ではその人の弱さが露骨に出てしまう。
だからこそ、場に入ることで人は成長する。
何も制作の場に限らず、人のこころと向き合う場においては、
自然さ、自然の流れが一番肝心だ。
場というものを20年近く見て来ても、
本当のこころや身体の構えと動きを適切におこなえる人を見たのは、
ほんの数人だろう。1000人単位の中での話だ。
誰か優秀な人や優れた人がいて、後は劣っているという話ではない。
そうではなくて、人間は不自然になってしまっている、ということだ。
その事実に直面出来ることが場の良さでもある。
問題を知らなければ、解決は出来ない。
まずは問題を知ることが大事だ。
なぜ、固くなるのか、鈍くなるのか、遅くなってしまうのか。
なぜ、自分から問題を作り出して溺れていくのか。
原因は無限にある。
プライドやコンプレックスはその代表だけど、
そういう感情がどこから来るかと言えば、やっぱり恐れだろう。
何かが怖いのだ。
本当は怖いものなど何もないのに。
ところで、場に入って、僕もプライドや恐れや悲しみや怒りを感じる。
すべての感情は普通の人と同じようにやってくる。
ただ、僕はそこにしがみつかない。すぐに終わらせてしまう。
すぐに気づいて、すぐに対処する。
それから、どんなものも、捕まえなければ、やがて去っていくことを知っている。
場の中で場を固くしてしまうのは、恐れによって生まれる不自然さだ。
みんな、こころや身体の構えが小さい。
少しのことでビックリしたり、パニックになってしまう。
落ち着きがない。怖くて不安なのだ。
その恐れや不安は相手や場に影響を与えてしまう。
安心感を持つこと、何があっても大丈夫という構えが場を良くする。
そんなことを話していて、ふと僕はなぜ場を恐れないのか考えた。
そうだ、僕は終わったところから始めている。
終わったところとは何か。形が完成された状態。
絵でいえば、描き終わったあと。
これはよくいうところの、出来上がりをイメージすることとは違う。
前にも書いたが、僕はイメージを持たない。
イメージの弱点を知っているからだ。
そうではなくて、感覚としていうなら、
始まった時にすでに終わっている感じだ。
今は始まりにいて、始まりは何もないから、何の問題もない。
そこで終わりも見えていれば、終わりにはすべてが終わっている訳で、
ここでも何の問題もない。
始まりと終わりに挟まれたプロセスだけの話なのだから、
何が起きてもそのプロセスを楽しむだけだ。
終わりから始めることが、場だけでなく人生の極意かもしれない。
あえて言えば予言のようなものだ。
霊のことを書いたことがあったが、占いや予言も僕には不思議なことではない。
占いや予言を信じる訳ではない。むしろ否定的だ。
そういうものには弱い人間が群がっているから。
でも、例えば完全に的中してしまう予言というものがある。
あれは何だろう。偶然ではない。
では、もし本当の予言というものがあり得たとしたら、
どのようなことがいえるだろうか。
つまり、その結果は決まっていた。終わりは分かっていたということになる。
そして、それは経験的にはあり得る話だ。
もちろん、断っておくがすべての予言がそうだということではない。
それから運命論とか決定論でもない。
すべてはあらかじめ決まっている訳ではないし、当然、変化する。
でも、例えばすべての人がやがて死ぬと言うことを否定する人はいない。
つまり、これだって予言だ。
やがて死ぬというレベルでの予言はあり得る。
終わりが見えていて、終わりから始めると、
すべてのプロセスは美しくなる。
それは本当に不思議なことだ。
始まったものはやがて最初の形に戻っていく。
宇宙も人のこころも。
どんなに問題があって、どんなに混乱しようと、
すべてがプロセスであることを知っていれば、恐れも迷いもない。
終わりから始めることを知れば、
こころにも身体にも自然な美しいフォルムが戻ってくる。
何も心配することはない。