2013年1月24日木曜日

深めること、伝えること。

さて、今月は結構書いてきた。

昨日はNHKの北川さんとお話しした。
出生前診断についてや、今の社会の中でアトリエがどんな意味をもつのか、
僕自身も日々考えさせられ、問いかけられている気がする。

僕達の仕事もこれからやるべきことは多い。

自分にどんなことが出来るのか、どんな役割があるのか考える。
何度か書いてきたが、これまで僕は深めることを中心にすすめてきた。
これからは伝えることであり、つなげることを中心にしていくと。
この深めることと、伝えることが僕の役割なのではないかと考えている。
仕事には向き不向きがある。
向いていないことをどれだけ努力しても、なかなか人の役に立つことは難しい。
自分の役割を自覚することが大切だ。

僕には昔から個性や独創性がない。
何かをゼロから作り出すことはむかないかも知れない。
例えば、僕が今取り組んでいるようなことがらも、
もとはと言えば共働学舎での経験がベースだし、
障害を持つ人達のこころを深く知ることで、
そこから世界観を掴んでくるということも、
宮嶋真一郎の思想に背景がある。(そのような言葉では語られてはいないが)
ダウン症の人達のセンスを見つけだしたのも、佐藤肇、敬子が最初だ。
現場においても、個性的なのはよし子だ。

僕自身はどちらかと言うと、そういう独創的な人達が直感してきたことを、
深めていくこと、その本質を見極めることが自分の役割だと思っている。
それからそれを伝えていくこと、繋いでいくことが使命だと思っている。

僕のことを面白いと言ってくれる人もいるけど、
僕自身は面白いものを探したり、面白い人と付き合ったりして、
そこにある面白さを活かすことしかしていない。

みんな面白いなあ、大好きだなあ、と思っているだけだ。

そういう意味でも、これから更に繋いでいきたい。

しばらく、荷物の整理や雑用に追われていたので、
今日は久しぶりの休日だった。
そんなことで本屋さんに行った。
直木賞とか芥川賞とかが発表されたからといって、読んでみようとは思わない。
でも、今回は読みました。「abさんご」。75歳での芥川賞受賞だそうだけど、
そういう話題性は別として作品が素晴らしい。
もう長い間、小説なんて読んでいなかったのだけど、
久しぶりに良い読書だった。さっき買ってもう読み終わってしまった。
言葉が生きているし、個性的な文体なのだけど、それより、
本当に丁寧に書かれていることと、事物を慈しむ眼差しがいい。
ありきたりな感想だけど、死の視点から生を捉えている感じだ。
ここにある懐かしさは人間の本質である、回帰と関係している。
本当に良いもの美しいものにはこの懐かしさがある気がする。

遠い世界に回帰して、そこからもう一度この世界を見ている。
今、ここにいると同時に、ここが遥かな過去であり、
すべてが終わったところから思い出されていることの様な、無限の感覚。

僕がジャマイカの音楽が好きなのも、この無限からの懐かしさがあるからだ。
言葉にすると矛盾してしまうが、今が過去であるという感覚。
すべては終わっているけれど、活き活きと輝いているという感覚。
もう書くまでもないことだけど、アトリエで僕が場に入っているとき、
良いときはこれと似た感覚になる。

最後の3ページは珈琲屋で読んだのだけど、その話は次回書きます。
(一言だけ言わせてもらうなら、この本の装丁は内容に合っていない。良い本になるにはデザインも大事だ。残念だなあと思う。)

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。