2011年8月14日日曜日

学生チームへ

夜のアトリエ最終日は、なおちゃんとゆうりくんだった。
2人ともいつになく集中して制作。
なおちゃんの花火、とてもきれい。本当に夜描く絵という感じ。

少し休憩と喫茶店にいったら、久しぶりにテレビのディレクターの方に会った。
その方はアトリエの様子をプライベート用に(今のところ)撮ってくれていて、
その映像には学生達と共にした日々が写っている。
そろそろ学生達にメッセージを書こうと思っていたので、思い出すことが多かった。

以前、アトリエに長く通う学生から
「アトリエは楽しいし、本質的なことにいっぱい気付かされるけど、深く入って行くと今の社会で生きづらくなる」と言われた事がある。
その時、僕は「そうだね。だけど一回生きにくくなった方がいいと思うよ。真剣に自分のテーマを追いかけたら生きにくくなるけど、そこから良い生き方を発明出来たらすばらしい。生きやすい生き方をしてはダメだと思う。生きやすい生き方ばかりしていると感覚がダメになる。時代はどんどん困難になっていって、いつかみんなが簡単には生きられなくなるから、その時に力を発揮出来る人間にならなければいけない」
というように答えたけれど、「みんなが簡単には生きられなくなる」時代は
あまりにも早く来てしまった。
言うまでもなく、今僕達が生きている震災以降の社会だ。
ダウンズタウンプロジェクト学生チーム3期生の卒業会は、
思わぬ事態で見合わせる結果となり、それぞれに時間が流れていった。
残念だった。
でも、離れていても同じ希望に向かって前進しよう。
今回は3期生だけではなく、1期生2期生も含めて、
このプロジェクトを共に創り、学び合ったみんなに向けて書く。
同じく学生とは違う立場からアトリエに関わって来た、栗ちゃん、ミヒロにも向けて。

3期生のモロちゃん、イサ(関川君)、遅くなってしまったけどおめでとう。
そして、学生チームとして関わってくれてありがとう。
これを読むか分からないけど、作品を運んだりといった作業にいつも協力してくれた、
五十嵐君にも学生チームの1人としてお礼の言葉を伝えたい。

みんなからは学ぶことの方が多かったと思う。
みんながいてくれたことで僕自身、とても成長することが出来た。
大人としてみんなを失望させたくないという想いが、
良い緊張感にも繋がっていた。
ちょうど、去年の今ごろは夏合宿だったね。
合宿の最初にみんなに伝えたことを覚えていますか。
一人一人が、この場を創るのだから、自分が良い場にするという思いを持って、
協力していこうと。
僕が言うまでもなく、みんなは自然にそれを実行しました。
アトリエに通う、展示やイベントを手伝う、論文を書く、みんなで語り合う、
と共にして来た関係性の集大成のような素晴らしい合宿をみんなが創ってくれました。
真っ白な、何も決められていない紙の上に絵具を重ね、
調和の世界を構成するダウン症の人達の話は2期生の時にしましたね。
まさしく彼らが何もない場を充実した調和の空間に作り替える、
バランスとセンス。人は調和に向かう本能を持っています。
絵を描くことも、場を創ることも、もっと言えば生きることもいっしょ。
そのことを一人一人が見せてくれたのがあの合宿でした。
いや、あの合宿だけではなくみんなが関わって協力し合ってやってきたこと全部が。
樹木を見てもただ存在しているものではない、
木があることで空気が浄化される。
一人一人が、存在することで、生きることで世界が少しでも良くなる。
僕達はみんなで、良くすること、良くなる方向に向かって進むことを、
ここ数年の間、学んできたのかも知れません。
あの合宿だって、誰1人欠けてもあのような良い場にはならなかった。
だからみんなが、一人一人が創造した合宿でした。
学生チームと僕達は人と人との関係や、身の回りの環境や、
世界を良くすることができるという単純でシンプルな事実を学びました。
世界がどんなに変わろうと、どんなに悲劇や苦難があろうと、
一人一人の良くしようとする意志で変えていくことは可能なのだと知ったのです。
自分達が学んだことを、この困難な時代の中で実践していきましょう。
良くしよう、良くあろうとする意志を持つことにおいて、
いつまでも僕達は仲間であり、繋がりを持ち続けます。
学生チームのみんな、これからも様々な場所から共に進もう。

一つ思い出すこと。
合宿の最後の日、日程がすべて終わって学生達と後片付けをしていた時、
僕とよし子はゴミを捨てにいってて、かえって来た時、
奥の部屋で学生達だけで語り合っている声が聞こえた。
覗いてみるとみんなが本当にいい顔をして仲良く、
家族のように見つめ合っていた。
楽しそうだなあ、この瞬間の為にもやって良かったなあと思って
僕は不覚にも感動して泣きそうになってしまった。
しばらく見ていると、よし子が「行ったらダメだよ。みんなだけにしてあげて」
と小さな声でささやく。
僕らはそっとその場を離れた。

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書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。