2011年8月20日土曜日

駆け込みアトリエ

昨日は久しぶりにイサ(元学生)がやって来た。
お腹の大きいよし子が料理を作ってくれて、三人でゆっくり話が出来た。
時間があれば、本当は一人一人会って話すのが一番いいなと思った。

肇さんからブログに、
「子供にも分かるアール•イキュレの項目を入れて、学校の先生や小児科医の方等、彼らに接する機会の多い人達も読めるようにしてみては」との提案を受けた。
いいですねえ。これは後々やってみたいと思います。

このブログではアトリエ・エレマン・プレザンの考えや活動を、
基本的な事は大体、分かるように書いていきたいと思っている。
「アール•イマキュレ」や「ダウンズタウン」の項目は近いうちに書く予定。
その他にも書かなければならない事も沢山ある。

あんまり、濃い話が続かないように今日は少し日常の話題をと思いつつ、
テーマを決めずにパソコンを開いた。
まず、何となく思い浮かんだのが、以前学生に言われた言葉。
「ここって、駆け込みアトリエですね」

アトリエには沢山の人が訪れる。
制作の場はなるべく見学はお断りしているが、
どうしても、実際にあってお話ししたいという方には、
教室の合間や終わった後等に来ていただいて、お会いする。
それぞれの現場で苦労なさっている方や、これから何かを始めようとする方。
様々なジャンルの専門家の方。
中にはお仕事のお話でみえて、一通り企画を話し終えると、
雑談の途中で「実は私‥‥」と悩みを打ち明けられる事もよくある。
「駆け込みアトリエ」はそんな場面を見て来た学生の名づけた言葉だ。

今では時間的に難しく、お断りせざるを得ない場面も増えて来た。
でも、ここへ来て何かを見つけて下さる方が、また社会で良い働きをされたり、
人との繋がりを作られたりといった事は、とても大切な事でもある。
その事が後にアトリエの助けとなったケースも少なからずある。

今でも思い出す事があるが、代々木でアトリエをしていた頃の話。
プロとして結構、お仕事をされているという女性の写真家の方から連絡があった。
絵を見て欲しいというお話だった。
少し深刻そうな感じもあり、僕達はとりあえず、お会いする事にした。
代々木のアトリエまでお越しいただき、
少しお話ししていると、だいぶホッとした表情になって来た。
「この絵を見ていただきたいと思って」と
小さめの紙に黒のインクで書かれた様々な文様のようなパターンを、
何枚も何枚もお出しになった。
ぱっとみて苦しさが伝わってきた。
「私、写真の仕事をしばらくお休みしているのです。写真が全く撮れなくなってしまったのです。最近、急にてが動き出して、紙の上にこんな絵が出来上がるのです」と
お話しされる。
一通り見ていくと、これは大変だなと感じる。
「お好きな絵を差し上げます」
まずいパターンだ。絵と同時に大変なものまで頂くはめになったら。
でも、この人の孤独感を何とかしてあげなければと、
その絵の中から僅かでも救いのありそうなものを真剣に探す。

その方とはその後、数回お会いする事になった。
生徒のいない時間にアトリエの絵の具を使って、絵を描いたりした。
色がのって来ると少し雰囲気も変わった。
「私、楽しい」と笑い、表情も柔らかくなって来た。

少しは元気になっていただけた。
でも、その程度で解決出来るような事ではない事は良く分かっていた。
僕達も忙しくなって来たので忘れていた。
時々、お手紙を頂いた。
写真が撮れそうになって来たとかいてあった。
その頃が一番いい時だったと思う。
そのうち、写真家として復帰しましたと連絡が来た。
いくつか展覧会があり、写真集も出た。
頂いた写真集を見て、この人は本当は写真をやめた方がいいなと感じた。
また、つらそうな作品に戻っていた。
でも、お話しする時間も、アトリエで絵を描いていただく時間もなかった。

しばらく、連絡が途絶え、人づてに亡くなられたと聞いた。
どのような最後だったのかは分からない。
ただ、「私、楽しい」と微笑んでいた顔が忘れられない。
もし、アトリエでのような時間をもっと過ごす事が出来ていれば、
という思いが残る。
あの時間は彼女にとってかけがえのないものだった。
そう思わせて頂く事で、彼女との別れを昇華したい。
何も出来なかった事を許していただきたい。

なぜ、ここには人が集まってくるのだろうか。
ここは当たり前のことしかやっていない。
ダウン症の人たちの持つ、こころの深く柔らかい部分にそっと触れていく。
一緒に、同じ景色を見て、同じ世界を感じ、味わっていく。
人間にとって一番大事な、こころの源泉に降り立ち、繋がること。
人間にとって、帰る場所は必ず必要だ。
帰る場所は、そこから来た始まりの場所でもある。
それは一人一人のこころの中にある。

みんなが幸せであれる場所を創りたいと切に願う。

この場をもっと良くしていく事。
まだまだやらなければならない事が沢山ある。

今日も軽めの話題になりませんでした。
ごめんなさい。

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書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。