2012年6月13日水曜日

約束

少し前に教室中、1人の生徒が僕の手を持ってきた。
しばらく委ねていると、僕の小指を引っ張って自分の小指と絡めた。
いわゆる指切りげんまんの形。
そして、僕を見て頷く。「分かったよ」と僕は言う。
こういう約束は僕は必ず守る。
どうやって守れば良いのか。何を約束したのか、言葉もないのに。
それはこころとこころで感じ合うしかない。
それが、一番大切な約束だ。

この生徒の場合、かなり長い間、病んでいた。
今でも完全に快復した訳ではない。
だから、この動作には大切な意味がある。

同じ日に今度は別の人から、手を握られ、手のこうにキスされた。
彼は男性だが、彼も長い苦しい時期を経験してきた。

明るく楽しく、平和なアトリエではあるが、メンバーの中には、
社会の中で、周囲の無理解の中でこころを病んでしまった人もいる。

彼らとの無言の約束を忘れてはならない。

自分の持つすべてを使う事を、書いた。
義務や責任を果たす事を書いた。
それらは決してただの重荷ではない。
そういった一つ一つを実行する事が、必ず喜びにつながる。

もう一つ大事なのが約束だ。

本当に厳しい状況にある時は、もうどんな動作も出ないという人もいる。
どこへ行っても何も出来ない。
そんな中でアトリエで絵を描くことが出来たりする。
(あくまで、例であってそんなに上手くいく事ばかりではない)
なぜだろう。
一つには僕自身で言えば、相手の信頼を裏切らない。
その形としては約束を守るということを、実行していく。

このブログで、これまでに書いて来たような心構えの一つでも自覚的に使えば、
困難な状況にある時、必ず乗り越える可能性につながる。
何かを変える、状況をよりよくすることが出来るはずだ。

今は社会全体が困難な状況にある。
こんな時に、何が出来るかが肝心だ。

自分のことを思うと、根が強く出来ている。
逆境を楽しむし、困難に挫けることはない。
迷うこともほとんどない。悩む時間があったら、少しでも状況にアプローチしてみる。
どうすることも出来ない時は、出来ることだけ迷わずする。
攻撃されても無理解にさらされても、簡単に意見を変えることはない。
人間関係の政治力に左右されることもない。

そんな僕でも、生きているのは本当に辛いことだなあと思う時がある。
約束を守り続けることに疲れる時もある。

でも、続ける。すすみ続ける。
そこから何かが変わっていく。
「もういいよ。ここでいいからここにずっといるよ」と言って、
立ち止まっている人達。
それがこれまでの友であったりする。
つらいことだけど、前に進み続けなければならない。
この世に生まれて動き始め、進み始めた以上は、留まってはならない。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。