2012年5月13日日曜日

佐藤よし子という人

昨日、東京も教室日だったが、よし子も三重でアトリエをしていたそうだ。
肇さんと敬子さんが少し体調をくずしているみたいだ。
来客続きで疲れも出たのか、熱をだしているという。
それで、よし子が三重のアトリエをみた。
悠太を背負いながらやっていたという。
大変だっただろうが、良い教室だったに違いない。
今の彼女にしか出来ない「場」というものがあると思う。
彼女の人間としての変化が場にあらわれる。

制作の場とは人生と切り離せないものだ。

しばらく、今後の取り組みについて書いて来たが、
今日はまた、内面的な話をしてみたい。

なぜ、よし子の三重での教室が良い形になったと言いきれるのか。
ずっと、彼女を見て来たから、子供を産み、もう一つの段階に入って、
それが深みを創らないはずはないと思う。
そういう人生のステップを、全身で自分のものにして、
誰かに分け与えようとしてきた場面を何度も見ているからだ。

普段はこんな話は滅多にしないので、
今日は佐藤よし子という人のことを書く。
僕にとってパートナーとしての彼女のことではなく、
あくまで制作の場における佐藤よし子という人のことを。
日常生活での彼女は普通の女性だ。
寂しがりやで、ちょっと子供っぽくて、家と料理が好きで、
家族のことや人のことを考えすぎる。
あまり変化が好きではなく、落着いた静かな時間を好む。
刺激や娯楽をほとんど求めない。
そういう感じの普通の女性と言える。

仕事での彼女はかなりストイックなところがある。
かなり厳しい。妥協しない。
真面目すぎる部分もある。

僕が最もこの人は貴重な存在だなと感じるのは、制作の場においての彼女。
場を創り、守る存在としての彼女。
そして、一人一人とのこころの共有の深さ。
ここが他の誰にも真似の出来ない、彼女ならではの能力と言える。

はじめて彼女と出会ったのは、もう16、7年も前のこと。
彼女はまだ17、8才だったはずだ。
当時、僕は共働学舎というところで、様々な障害を持つ人達と暮らしていた。
一年に40名もの研修生がやってきた。
将来、保育士や福祉士になる人達が研修に来て、一緒に寝泊まりしながら、
学んで行く。特に保育士になる子たちは2週間の間、ずっと一緒に暮らす事になる。
たくさんの人達がその場に入って、障害を持った人達のこと、
一緒に生活しながらどう関わるかを学ぶ。
僕は障害を持つメンバー達のことを知り尽くしていたから、
研修生、実習生の人達の見方や接し方に違和感を感じていた。
最初のうちは、ただそれって違うよという態度だったけど、
関わりも長くなってくると責任感も出て来て、
じゃあこの人達に伝えれば、
外での環境ももっと良くなるはずだと考えるようになった。
(今、思うと彼ら彼女らより僕の方が年下だったのだけど)
2週間あれば、だいたい最後の3日くらいで凄く良くなる人が多かった。
でも、伝えることは難しいことでもある。

例えば障害を持っている人達に、身体的な介助をしてあげたり、
何かを教えてあげることは、少し勉強すれば誰にでも出来る。
でも、彼らの世界に入って行って、一つになって行くことは、
なかなか難しい。
実は僕自身はそんなに難しさを感じたことはなかったのだけど、
多くの人達を見ていて、それを感じるようになった。
理想的な関係を創れる人は100人に1人、居るかいないかだった。
しかも、時間も結構かかる。

研修生や実習生が帰って、来客もいない時期に、農業の学校からの、
専攻実習というはじめての形で、佐藤よし子という人がやって来た。

僕はまた、2週間くらいしたらちょっと変わるかなという感じで、
まだ会ったことも無い人のことを考えていた。
ご飯を食べにみんなの集まる部屋に入ったとき、
はじめて彼女を見て、えっなんだ、と思った。
もう既にメンバー達のこころの深くに入って、景色に溶け込んだ彼女がいた。

それが出来るというのが、
普通の人が想像するより遥かに難しいということを知っていた。

その頃から彼女の現場での力は変わらない。

普通の人が想像するより難しいと書いたが、
制作の場での意識の使い方にしてもそうだ。
これは見ていて分からないことだとおもうが、
想像以上に体力と気力を要する。
はじめてやってみるとヘトヘトになる。
一度、場に入ってしまえば、一瞬たりとも気をそらすことは出来ない。

よし子の場合はこういうことをする為に生まれて来たのでは、
と感じるような存在だ。

多分、僕とはまたぜんぜん違う部分がある。
そこに対してはいつも尊敬する気持ちがある。

彼女はかなり個性的な場を創る。
僕はどちらかと言うと、もっと相手に合わせた感じだ。
(勿論、彼女が相手に合わせない訳ではない)
だから、僕みたいな在り方には、今のゆりあの方が近いかもしれない。
ゆりあがきっちり継承していってくれるな、と感じている。

よし子のような存在は他にはいないし、誰も真似出来ないだろう。
それは本当に貴重なことだ。
だから、子供を産んでさらに深まった彼女の現場が見てみたい。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。