2013年3月13日水曜日

今日はまた強い風が吹いている。
ゆるい日差しと白っぽい空。
子供の声。小さい女の子かな。
金槌を打つ音。風の音。

昨日のメンバーはだいちゃん、ゆうすけ君、てる君、ハルコさん、アキさん、
それからあきこさんと稲垣君もいて、そして僕。
みんなでこうして制作を基本にしながらも、何気なくお話ししたり、
一緒に過ごしていられることが嬉しい。

いろんな意味でここは良い場所だ。

日々の出会いや、経験や、みんなと交わした会話、
繰り返し繰り返しやって来る素敵な時。
何度も何度も見た映画、一枚の絵画の前に30分も立っていた記憶。
繰り返しきいた音楽。
美しいものの形。
呼吸して、食べて、すべてが血となり、肉となる。

深く深く、本当に深く眠る。
目がさめると全く新しい何かがある。
過去のすべてはどこかへ消え去ったように。
全く新しい景色。
でも、それはどこかで見たことがあるようなものでもあり、
どこかでその時間を生きていたような気もする。

風が吹いている。
時々静かになって、光がゆれる。
光は波のようにも、粉のようにもなって、どこへでも行く。
キュー、キュキューーーと遠くからの音。
どこかのドアの音なのか。
他には風の音しかしない。

何にもないのにすべてがあって、
そしてここが全部なんだと分かる。

春という季節の生々しさ。

風はどこか遠いところから吹いていて、
そして僕達を遠いところまで連れて行く。

いつかどこかで見た景色。

アトリエで僕達は何をするのか。
もちろん、制作に関わるのだけど、
では、絵を描くことで何をしているのか。
ここでみんなが集まって一つの良い場を創ろうとする。
一人一人のこころの奥へ潜って行く。
未来へ抜け出ようとすることでもあり、遥か過去へ遡ろうとすることでもある。
そして、逃げないでどこまでも本質を見極めようとする。
最後のところまで行こうとする。
最後のものまで見ようとする。
そうやって、ここで何が本当なのか、みんなで知ろうとしている。

毎日そうやって、この場で自分を磨いて行く。
何をしているのか。
ひとことで言うなら、僕達は今をつかもうとしている。
今を知ろうとしている。
今を生きようとしている。
そして、この今にこそすべてがある。

今日は強い風が吹いている。
日差しはとてもとてもやさしい。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。