2013年3月12日火曜日

美しい形

チイ、チイ、チチチチ、と鳥が鳴いている。
良く晴れて少しづつ暖かくなる。

洗濯機を回しながら、お茶漬けを食べる。
今年も始まったと思ったらもう3月。
お客さんも多いけど、やるべきことも沢山ある。

よし子が送ってくれる、ゆうたの写真や映像。
見ていて本当に救われる。
どんどん大きくなって行くなあ、と寂しくもあり、嬉しくもあり、
そして、やっぱりどんな時も一緒にいてあげたいという気持ちもある。

離れていても思い合うことは出来る。

そして、今はゆうたが生きていることが、一番の喜びだ。

絵画クラスはここ1ヶ月くらい制作が素晴らしい。
春になってきて光が出てきて、色が豊穣になっていく。
自然の変化に、やっぱり彼らは敏感だ。

あきこさんと赤嶺ちゃんが絵本を貸してくれたので読んでいる。
17ひきシリーズは、大好きになった。
森の中でみんなが一緒に暮らしている。
ただ、自然とかわいい家があって、そこで料理したり遊んだりしているだけ。
それなのにぐんぐん引き込まれて行く世界観がある。
ここにある共同体みたいな感じは、
誰しものこころの中にある原風景と重なるのだろう。

僕達の場もずっとずっとそうありたいと思っている。

この前、買い物の帰りにブックオフへよった。
お能のDVDが700円。
それが以前から興味のあった役者がシテをつとめていたから買ってみた。
映像ではほとんど伝わらないものではあるのだろうけれど、
それでも本物の名人というものは凄い。
みたままに凄い。
すべての動きが自然で、流れに滞りがなく、どこにも力や緊張がない。
かといって間の抜けた動きも、つなぎの動きもない。
すべてが完璧なのに、完全さのもつ窮屈さがない。
全く自由で透明な水のような動きだ。
ただ立っているだけでも美しい。
人間はこうまでなれるのか、と感動した。
流れる動きと存在の神聖さをただじっと見ていた。
そこにはもはやお能など存在しなかった。

寝る前にうとうとしながらも繰り返し見たので、
夢でも名人の舞を見ていた。
どこまでが夢でどこまでが現実なのか。

名人は手を上げたり下ろしたりするだけで、宇宙のすべてを感じさせる。
森や海のように存在そのものとなっている。

物の美しさって何だろう。形の美しさって何だろう。
完成された形という物があって、それはどこかの石ころかも知れないけど、
その姿形を見ていると、他ではあり得ない、こうでしかあり得ない、
最後の最後の、奥の奥のものが見えてくる。
その形が見せてくれる。教えてくれる。

生きてあることの神秘を感じさせてくれる。

ただそこに居ること、深く居ることに徹しられる人間になりたいものだ。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。