2011年11月19日土曜日

幸福論

昨日はアトリエで、たまっていた事務仕事をして、よしことゆうたに会いに行った。
よしこは結構消耗したから、回復に少し時間がかかるかも知れない。
あかちゃんは可愛くて、いくらでも見ていられる。
すぐに時間が経ってしまう。
よしことゆうたが見せてくれているものによって、
僕自身、また新しい世界に入って行く。本当に不思議だ。
ゆうたが産まれて確実に何かが変わった。
僕の場合、自分の生の深まりが直接、教室の場に反映される。
逆もそうだ。教室で感じる世界が日常を深めて行く。
生きているのが面白い。
2、3年前とも制作を見る目は全く変わっている。
多分、一生変化して行くのだろう。

出産に向けて、たくさんの方から励ましのお言葉を頂いていた。
直接、ご連絡出来ていなくて、申し訳ないが、
多くの方がブログを読んで下さっているようで、嬉しいメールが届いている。
ありがとうございます。

家に帰ってニュースを見ると、
ブータン国王が来日されているとのこと。
ブータンは多くの文明とも、アジア諸国とも異なり、
物質の豊かさばかり追い求めるのではなく、国民の幸福度を基準として、
国づくりをして来ているという。
すばらしいことだ。日本も見習うべきだろう。
多くの国が西洋化する事によって、幸福を失った。
何故だろうか。
何故、物質の豊かさと幸福とが反比例するのか。
お金を例にとろう。
お金を持つと、物事が容易になる。お金で交換すれば努力しなくても出来る。
この容易になる、努力しなくなるというのが曲者で、
簡単なものに、便利なものに思いはこもらない。
簡単になれば、生命自体も簡単な存在になる。
実は困難こそが、深い世界を見せてくれる。
例えば、人が亡くなる。
その人との関係が浅いものであればある程、死は容易に受け止められるだろう。
簡単とはこのように関係が浅いことを意味する。
だから、関係が深ければ、悲しみも傷も深く、受け止め、乗り越えるのも困難だ。
でも、その困難が僕達に見せてくれる豊かさは他ではかえられない。
深い悲しみは自己を純化し、無駄なものを削ぎおとしてくれる。
本当にきれいなものを見せてくれる。
人は失うことによって、得られるものが多い。
困難を避けていては本当の世界は見えて来ない。

物質の豊かさを得るのに、たくさんの技術が必要だった。
この技術をのみ、この世界は価値とし、能力とした。
このままでは幸福になど絶対になれない。
幸福になる力そのものも価値であり能力であると認めることだ。
幸福を運だと勘違いしてはいけない。
黙っていてどこかから転がってくるのが幸福ではない。
幸福とは見出すもの。努力によって深めて行くものだ。
どんな場所にも状況にも幸福は存在する。
見付けだす感覚の力を磨くことだ。

何が言いたいのかと言うと、
やっぱりダウン症の人たちのことだ。
アトリエの場にある幸福度はブータン以上だと自負している。
彼らが幸福を生きる能力をそなえているからだ。
このような価値にも学ぶべきだ。

もう一つ。
先日、僕達も特別研究員として所属している多摩美の、
芸術人類学研究所から、会員向けの冊子をお送り頂いた。
それを読んでいて、編集後記にスタッフの方の書いておられる文章について。
福島から排出された放射性物質の量から計算すると、
それがこの地上から消えてなくなるのに数万年の歳月を要すると、
その方は続けてこう書いておられる。
数万年後の人類が振り返ったとき、私達の文明をどう思うだろうかと。
負の遺産だけを残した愚かな時代として振り返るだろうと。
いつもお世話になっている方に申し訳ないが、
仲間としてあえて言わせていただく。
黙って、放っておいて数万年先に人類がいるとお思いだろうか。
何もしないでぼーっとしていて、何とかなるだろうと、
いつか誰かが愚かだったと回想しているだろうと。
その様な危機感とリアリティの欠如が、このような問題を生んだのではないか。
その様に言葉のうえで記号化して世界を見ていると、
数万年後に振り返る誰もいなくなっているのではないか。
これは現実であり、我々は今、責任を持って人類の生き延びる道を模索している。
大きな目で物事を捉えると言うことと、危機感の欠落を混同してはならない。
多分、何気なく書いたのだろう。
この様な大きなテーマは何気なく書くことではない。
あえて、外からではなく仲間として言わせていただいた。
気を悪くされないことを願う。

楽天的とかプラス思考と、希望を持ち続けることは違う。
しっかり危機感も責任感も持って、クサいものにふたをせず、
真剣に深く生きていきたい。
挑む姿勢が出会うものの深さを決める。
同じ現実でも、そこから何をもらうのかは人によって違う。

幸福はどれだけ深く生きるかにかかっている。
人は幸福になり、人を幸福にする責任がある。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。