2015年11月4日水曜日

ある小さな記憶に。

今日は大事な打ち合わせが2つ。
明日と明後日はラッシュジャパンさんの社内イベントに、
気まぐれ商店として参加させて頂く。
そして、土曜日は明治学院大学で高橋源一郎さんとお話しする。

12月も3回程、トークします。

ぼーっとしている時間にふと思い出した記憶。
保育園の頃からずっと2人だったK。
この記憶もKが関わっている。

僕らが子供の頃、一番良く遊んだのが、まあちゃんだった。
まあちゃんは僕らより一つ年上で、最初は上のクラスまで遊びに行っていた。
ところが、次の年には同じ組になって、
その次の年には一つ下の組になっていた。
子供時代はそんなことにあんまり拘らなかったから、
なんでだろうとも考えた記憶は無い。
Kも僕もまあちゃんと居るのが楽しかった。
遊び方が似ているのもあった。
まあちゃんは知的障害を持っていた。

記憶とは不思議なものだと思う。
いつの間にか僕はまあちゃんの存在自体をすっかり忘れてしまった。
まあちゃん自身もどこかへ消えてしまった。
いつ居なくなったのかさえ覚えていない。

それからいくつかの夏が過ぎて行った。
相変わらずKと遊び回っていた。
ある日突然、Kが僕に言った。まあちゃんのことを覚えているか、と。
ああ、そうだったまあちゃんっていたんだ。
あんなに仲が良かったのに。
Kは続けた。
やっとまあちゃんの居場所を見つけた、と。
え、ずっと探してたのか。

とにかく、今度遊びに行こう。

Kの話によれば、まあちゃんは僕らの共通の友人の兄だった。
障害があるので、人に知られないよう家から出ないようにしている、という。
内緒だよ、とその共通の友人が打ち明けたそうだ。

まあちゃんの家に大人が居ないと言う日を狙って、
僕ら3人は遊びに行った。

まあちゃんの部屋は2階にあった。
そこでの再会は忘れられない。

僕らは何も変わったことが無かったかのように遊んだ。

Kはやっぱり凄いヤツだと思った。

僕らはその時間をずっとずっと秘密にした。

そしてまたいくつかの夏が過ぎて行く中で、
秘密もまあちゃんも記憶から消えて行った。
今度はKも思い出さなかった。

まあちゃんのことをもう一度、思い出した。
30年ぶりに。

木漏れ日の中で。
それでも、あの頃と何も変わっていないのだ、という感覚もある。
緩やかな風が吹いて緑の葉っぱを揺らした。
今日と言う日のこともまた何度も思い出すだろう。
そう思いながら外を歩いた。

あの頃の夏は無限のように、時間が静止ているようだった。
Kも僕も、まあちゃんも今もあの時間に居て、
僕はあの3人を微笑ましく見つめていた。

また遊ぼうね。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。