2015年11月17日火曜日

優しい雨

静かな一日だった。

生温い。曇り空に時々光が射した。
夕方からぽつりぽつりと降り出して来た。

思い出話を沢山書いて来た、と思う。
昔のことはやめておこうと思いながらもついつい。

過去が強烈だったということでもある。

でも、最近、ずっと現場に立って来たことと、
人生で色んなことをいっぱいやってきたことを、本当に良かったと感じる。

人が生きて行くということは、多くのことに振り向かないということでもある。
場に立つということは、そんな一つ一つを見据えて噛み締めることだ。

無数の記憶に囲まれ、それら一つ一つが語りかけて来る。
時に胸が張り裂けそうな程、美しく悲しい記憶。

自分の経験だけではない、場の中で出会ってきた人達の経験や、
映画で見た場面や、本で読んだ景色、
今となっては全部同じように生々しく迫って来る。

今は恐ろしいことが進んでいると思うし、
個人の力では到底、太刀打ち出来ない。
僕には一つの現場に魂を注ぎ込むことくらいしかやれることは無い。

ただ、命ある限り、全力を尽くすこと。
そして、沢山見て、経験して、感じて行くこと。
どれだけ見て来たかが大切だ。
見たもの、感じたもの、経験したものが、認識を深めてくれる。

認識の深みの中で人は最後のものを見る。
それこそが生まれて来た意味であり、この世界の素晴らしさだ。

この世がどんなに悲惨で救いようの無いものになろうとも、
それら全てを超えて、全てを包んで輝くもの。

一枚の美しい絵を見るように、この世界の全てが見えて来る。
その光景を前に、僕達は生きて来て、産まれて来て、
みんなと出会えたこと、この世界にいることに、
深い感謝の想いと喜びに満たされるだろう。

僕達はずっとここに居たし、これからもここにいる。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。