秋の気配。
この季節は僕にとっては寂しい感じがする。
でも、しみじみして楽しかったこととかを思い出したり、
大事な時間になったりもする。
外での仕事や打ち合わせが多くなってきて、
なんだか話すことが仕事のような変な気分だ。
さっき、喫茶店で稲垣君と遭遇。
彼とは本当にばったり会う確率が高い。
合宿後、最初の出会いだったので色々話した。
いろいろあるけど、いつも本当に思う。
僕のところに来てくれている若い人達。彼らが一番の仲間であり理解者なのだと。
純粋だから裏切れないなとも思う。
稲垣君は今、色んな場所で撮影しながら、どんどん新しいものに向かっている。
真剣に学んで自分を磨こうと挑戦を続けている。
話していておっと思ったのは、
彼が自分を磨いて行こうと思った動機についてだった。
良いことを聞かせてもらったと嬉しかった。
アトリエに来て、制作の場を見て、彼が気づいたこと。
それは、人は裸で存在していて、それだけで美しくなければならない、
ということだった。
どんなに着飾って、武装して、自分を誤摩化しても、
場に入って通用するものではない、と。
彼はアトリエで自分が通用しないと感じたと言う。
その悔しさを忘れないで、人間として自分を磨きたいと思ってやっていると。
彼の気づきは極めて本質的だ。
そして、制作の場での経験がそんな風に、
自分を育てて行くことに繋がってくれているなら、
これが本当に大切なこの場の役割の1つだと思う。
だからこそ、僕達は日々、真剣勝負だ。
彼が鋭く見抜いてくれていたように、
場においては、いっさいのウソや誤摩化しが通用しない。
言い訳しても無駄だ。
場に入った瞬間に、座った瞬間に、立った瞬間に勝負は決まってしまう。
ダメな場合は何をやってもダメだ。
逃げも隠れも出来ない。
僕達は捨てて、捨てて、裸になって場に立つ。
真っ正面から本質に向かって行く。
怖いことだし、厳しいことだとも言える。
でも、だからこそ楽しい。
逃げも隠れもせず、ここにいる。
その正直さがすべてを良くしてくれる。
せっかく生まれてきたのだから、
お金を貯えることや、地位や名誉を追い求めることに価値をおくのはつまらない。
権力にしがみついたり、媚びたり、恐れたりしてるだけで終わるのはばかばかしい。
威張ってみても、チヤホヤされても虚しさは消えない。
せっかく生まれてきたのだから、美しくありたい。
美しさは強さと共にある。
いまここで、真っすぐ立って、事物を慈しむ。
そうしてみると、他に何もいらなくなる。恐れもなくなる。
媚と恐れとプライドを捨て去れば、人は美しくなる。
制作の場ではそんな姿で向き合わなければならない。
明日もみんなのと真っすぐ繋がって行こうと思う。