2012年9月16日日曜日

背伸びすること

鈴虫の声っていいなあと思う。
暑いけどもう秋だ。
よし子と悠太はちょっと疲れ気味で、体調もあまり良くない。

ダウンズタウンに向けて少しづつ下準備を初めている。
まずは土壌をどう整えていくか。

昨日は土曜日クラス。午後のクラスは人数が増えて、もういっぱい。
でも、みんなとても楽しそう。
佐藤よし子がラジオ出演の際、大変お世話になった作家の高橋源一郎さんが、
アトリエまでおこし下さった。
午前のクラスからご見学で、午後も、一日アトリエで過ごしていただいた。
雑誌の連載で取り上げていただくそうです。

色々とお話しして楽しい一日だった。
本当に良い方だ。
こうしてアトリエやダウン症の人たちを応援して下さる方が増えていく。

学生チームのみんなが卒業してしあばらく経つが、
また現役の学生達が少しづつ、アトリエに集まって来ている。

学生達と付き合っていくのは、作家たちと向き合うことと、
また少し違っていて面白い。
わざわざ言うまでもないが、僕達の関係はほぼ同列だ。

人として何が必要なのか、直感を持っている人がここに来るのだと思う。
みんな周囲の環境に配慮出来る繊細さは充分に持っている。
それは本当に大切な事なのだけど、
僕の考えでは10代20代は、やりすぎるぐらいの勢いがあっていい。
というか必要なのでは無いだろうか。
社会人でも、気負わないとか、自然派みたいなことが流行っているけど、
大事なのはメリハリだと思う。

あくまで例えばだけど、女性でお化粧しませんとかハイヒールは身体に悪いとか、
いろいろあるが、身体に負担をかけたり、緊張感を与えることが、
一概に悪いことだとは言えない。
気合いを入れると言うことが、実は大事なときがある。

これも、一般論では言えないけど僕の場合、
風邪をひいた時にあえて寒い場所に行ってコーヒーを飲んで直す事がある。

身体に悪いことを全部取り除けば健康になるとは限らない。
緊張感によって生命力が強くなることもある。

何を言いたいかというと、絶えず礼儀正しく、謙虚に、
身の丈に合ったことだけしていては成長しないということだ。
いつも無理しないでいては何も変わらない。

時に身の丈に合わないことをする。無理する。
背伸びする。自然じゃないことをする。緊張する。

人はどんな時も適合していこうとするものだから、
背伸びすれば、少しづつ大きくなれる。
場にそぐわないと感じれば、その場に相応しい人間になろうと努力する。

良い、悪いも大事だけど、それ以上に勢いが重要だ。
例え悪くても勢いがあるなら、方向を変えれば良いものになる。

前にも書いたかも知れないけど、
僕は調子に乗っている人が居ても、邪魔しないようにする。
確かにエネルギーが間違った方向に行っているのだろうが、
勢いがあるのだから、その勢いを否定してはいけない。
無理なことをしようとする人を止める事もない。
逆に勢いが弱い人を押してあげる事の方が大切だ。
勢いがありすぎて、調子に乗っていたり、無理したりしても、
そのうち、セーブがきくようになってくる。
生命力は否定してはならないものだ。

これは誰かに聞いた話で、確認出来ていないので本当かは分からないが、
こういう事がある。
花伝書で有名な言葉、「しょしんわするべからず」というのは、
一般には出来るようになったからと言っておごってはならない、
初めての時のように一生懸命やりなさいという意味で解釈されている。
でも、この意味は実は逆だという。
初めて踊ったときは無心で、簡単でただ気持ちよく舞っていた。
その時のような気持を忘れてはならないと言うことだと。
これは本当だなあと思う。
私達は何事も経験を積んでいく事で難しくしていっているのではないだろうか。

僕達のアトリエの作家たちはまさしく、いつでも初心だ。
初めて絵を描くように、いつでも描くことが出来る。
だから、彼らには無理や背伸びは必要ないし、
させないように周りが配慮する必要がある。
(彼らの場合は無理させる事は性質として危険な事だ)

で、結局背伸びする事が良い事か、悪い事かだけど、
まあ、本当のところは無理や背伸びは良くないだろう。
でも、僕達のような凡人には時には必要なのではないだろうか。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。