2012年11月20日火曜日

呼吸

そういう方が多いと思うけど、
何とか年内に終わらせなければならない仕事におわれている。

そんな中でも外の世界の騒々しさから無縁な場所が教室。
ゆっくりとか違う時間という言い方で、ダウン症の人たちのリズムを語って来たけど、
ここでの彼らは一定のテンポがずれない、というのが凄い。
この1年を見ていても、いつでもどんな時でもペースが変わらない。
良い時も悪い時も同じリズムで時間が流れている。
ある意味で乱れないというか。
彼らと一緒にいると落着くという人も多いが、それはこのことと関係している。

彼らの感覚は鋭く、その瞬間を捉え、即座に調和して行く。
制作における即興性も物事を瞬時に見極める素早さも、
とてもスピード感があるものだ。
おっとりした彼らのたたずまい、
呑気そうな雰囲気のどこからあのスピード感が出てくるのか。
一言で言うとそれは軸が安定しているから、瞬時に動きに反応できると言うことだ。
動きのあるものを捉えるときや、即興性には軸の安定感が必要だ。
軸がブレないという状況で始めて、動き変化する流れに対応出来る。

前回、自由学園の環境が素晴らしいと書いた。
あの場所の秘密の一つが建物と自然のバランスにあるのだが、
特に線の安定感によって、不動の場所から外を見ているような感覚になる。
こちらが動かないから自然の繊細な動きが見える。

僕は10代の頃、禅寺でお坊さん達と一緒に生活させてもらっていた時期がある。
あの日々を思い出す事があるが、あれもブレない安定したリズムを見つけだし、
そこから物事に対応していくと言うとと関係している。
同じ時間に同じことをくり返す、全く変わらない日々が退屈かと言うと、
実はそんな事はない。普段よりもっと自然の変化を感じることが出来る。

疲れると呼吸が乱れる。緊張すると呼吸が乱れる。
同じ呼吸を保つことはなかなか難しい。

リズムというのは呼吸のことだ。

一定のリズム、テンポ、呼吸を保つこと。
作家たちの制作に流れている時間と出来上がった作品はその事を示している。
現代人の日常はリズムが乱れに乱れている。
色んな問題はそんなところからも来ているのだ。
ちょっと落着いて、と誰かが言わなければならない。

場を整えるという私達スタッフに要求されることも、
ここで言った安定したリズム、呼吸によって、いつでも安心出来る空間を創ることだ。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。