2012年11月11日日曜日

リズム2

さて、リズムについて書きたいが、
前回書いた西洋から生まれた考えの一番深くにあるものについて。
「部分は全体であり、全体は部分だ。」というものだったが、
この思想の凄さについて充分に書くことが出来なかった。
未だに現代アートとか現代音楽と呼ばれているものに、
多くの人が魅力を感じられないで、
ある時代のものには一定の愛好者がいるという事実がある。
それは、この思想が信じられていた、無意識に共有されていた時期の、
芸術、科学、他の様々なジャンルにあった秩序の美しさに由来している。
でも、ここではあっさり書くことしか出来ないが、
その世界観はすでに終わったものだ。
確かに強固な魅力はあるが、まだ意識中心、言語中心の世界観であり、
もっと奥に踏み込まなければ本当のものは見えてこない。

リズムについてだ。
自由について考えて来た、そこで抑圧や既成が自由を歪めていると書いた。
前回から書いている西洋型の秩序も合理主義も、
自然や物事を加工して理性のもとに配置することでバランスを保って来た。
リズムも、そんな中で解釈されている。

でも、本当はリズムこそが自由でありつつ普遍的秩序へいたる道具かも知れない。

リズムについて、これまでも何度か書いてきた。
リズムって何だろう、と考える。
あるリズムに乗っている時、あるリズムを感じている時、
それは確かに目の前に存在している。
でも、捕まえることは出来ない。メトロノームで計ることは出来ない。

音楽にだけリズムがある訳ではない。
リズムは生命体のすべてにあるし、もっと言えばこの宇宙のリズムだってある。

音楽を勉強しても、練習しても、それだけではリズムを見つけることは出来ない。
なぜなら、本当のリズムとはそれぞれの固有のものだからだ。
それは自分の中でしか見つけることは出来ない。

ダウン症の人たちが絵を描く姿をずっと見てきた。
彼らはそれぞれ自分だけのリズムを持っていてブレることはない。
しかも集まった時にそこに秩序がある。
これが本来の自由であり個性だ。
個性、オリジナリティとは人と違うことをしようという努力とは無縁だ。
ちょっと変わったことを考えてみようとか、
そんなレベルの話ではない。
もっと生命体の尊厳のようなものだ。

これも誰かから聞きかじったことだけど、
ボクシングでは打つ引く、フットワークやステップがあって、
リズムがとても大事だそうだ。
そして、普通の選手は相手によってそのリズムが変わるが、
強い選手はリズムが一定でどんな相手と戦っていてもリズムは変わらないという。
これも自分のリズムを持つという形だろう。

生命体は自然界から生まれている以上、この宇宙に通じていないものなど一つもない。
そして、どんな存在も、そこにしかないリズムを持っている。
自らの本来のリズムに忠実であれば、普遍へ通じる。

ここでも教育の問題だ。
学校だけのことではなく、家庭から社会からすべてが無意識でおこなっている教育。
そこでは、はいこの時間にはこれを始めましょうという、
ある一定のリズムを仕込んでいく。
その結果、人は本来の自分のリズムを忘れていく。
ここまで書いて来た人間中心の秩序だ。

本当は自分のリズムを知らなければ、他人や自然のリズムをつかむことは出来ない。
本当の秩序や調和に至ることも出来ない。

リズムを手放してはならない。
妥協したり安売りしてはならない。
それは自分だけのものであり、自然界が与えてくれたものなのだから。

まずは内面的にでも時計を捨ててみることだ。
時計などで時間は分からない。
時間は一つではないからだ。
それはみんな体験的には知っているはずだ。

リズムと時間は多様だ。
生命体一つ一つに与えられている尊厳だ。
リズムは呼吸だ。間でありテンポであるもの。

良い音楽を聴いていると、世界中がその音楽で満たされる。
見えるものすべてが、そのリズムで生まれて来ているように感じる。
それは錯覚ではない。
1人の人間に固有のリズムを通じて、
この宇宙の普遍的なリズムが感じられる。

ある時期、僕はセロニアスモンクとグレングールドの演奏を聴き続けていた。
モンクが頭になり続けているときは、どこを歩いていても、
モンクの間とテンポで世界が感じられる。
グールドの時はまた生きているものすべてや、そこにあり、
流れている事物のすべてがグールドのリズムで見える。
どこにいてもリズムがある。
風邪をひいて寝込んでいる時、ちょうどそのころ重労働が続いて、
身体もあちこちが痛かったり重かったりした時だった。
意識もぼーっとしている中で、音だけは明晰に聞こえていた。
窓の外から見た景色があまりに美しかった。
モンクやグールドのリズムがいたるところにあった。
そのリズムを通じて、生命や宇宙のリズムを聴いていた。

今でも僕はアトリエで一人一人のリズムを感じとることを大切にしているし、
場全体のリズムの重要性も知っている。

お互いを大切にしよう。
環境や自然の声をしっかり聴き取ろう。
そんなことをリズムが教えてくれる。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。