2012年11月14日水曜日

関わること。関わり続けること。

たっ君は朝、アトリエに到着すると、
「わっはっはっはっはっはー」と大きな声で笑う。
エプロンを付けて座るとすぐに筆をとって、手が動き出す。
本当に自然にさーっと動き出す。
意志で何かをしている感じがしないくらいに。
自動的に物事が進んでいくように。
ぱっと絵具を飛ばしたり、筆をドンっと紙に叩き付けて、
でも、ぜんぜん乱暴な感じがない。
スー、スーっと色が重なっていき、5分もしないで描きあげる。
途中、全くしゃべらない。合間合間に笑う。
お鮨、マグロ、海、がタイトル。
描き終わるとすぐに立ち上がって、今度は粘土でお鮨をつくる。

出来上がった作品はどれも美しい。
彼の制作を見ていると、即興というものが何なのか良く分かる。

多分、生きると言うことにおいてもアドリブは大切な要素だ。

彼と積み重ねて来た即興の制作の記憶。
色が重なる鮮やかで鮮明な時間の流れ、スピード感。
すべてが皮膚に刻まれているようだ。

たっ君は今月いっぱいでアトリエを離れる。
お父さんが海外に転勤で、家族みんなで移動する。

残すところあと一回。
一緒に場に入って、良いものを残そう。

今年ものこすところ後わずか。

みんなとの場の雰囲気や、一人一人の息づかい。
筆の動き、会話、笑い、流れ、何度も何度も形を変えつつくり返す。
みんなで場に入り、場を創り続ける。
自然な流れの中でかたちが生まれ、変化し、また次の形へ向かう。
去年も今年も来年も。

アトリエでの活動も、このブログも最初のころは説明しなればならない事、
話さなければならない事がたくさんあった。
何事も始まりはそうだ。
今は多くの説明の必要を感じない。

良い流れを見極めて、良い流れに入って行けばいい。
流れていれば問題ない。
止まっていなければ、固くなっていなければ。

流れの中でいろんなことを感じる。
関わって来たすべての人の声が聞こえる。
どの瞬間にも、どの時間の中にも、人や思いや、出来事が一つになって、
いつでも語りかけてくる。
すべての時間が同時にあって、すべての声が同時に聞こえている感覚。
関わるということは人に対しても出来事に対しても一つになるということだ。

創造すること、場に入ること、人と一緒に深めること、
プロジェクトを進めること、すべては関わることだ。
生きることとは関わること。
関わることとは関与し、関与され、変化し流れること。
次の瞬間には違うものになってしまうこと。
決して引き返さないことだ。
関わることは、関わり続けることだ。
一度でも関わったものは、折り重なって一つの流れを創っていく。
たくさんの人の顔や情景が、一人一人の呼吸と、
一つ一つの出来事や景色が、重なって、重なって大きな流れの中で、
見えてくる。聞こえてくる。
すべてが一つの身体の細胞のように。一つの海のたくさんの波のように。

それが見えた時、その地点に立った時、
始めて関わること、関わり続けることが何なのかが分かる。

無機質なコンピューター(物質としてのそればかりでなく、人間の頭の中の、意識の中の
機械的合理性)に閉じこもって、本当の関わりを知らない人達。
関わるという運動体に生命体に飛び込んで、参加した方が良い。
それが生きるということなのだから。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。