2013年4月10日水曜日

生命体のリズムと尊厳

今日はNHKの吉川さんと打ち合わせ。
ダウンズタウンを中心とした撮影がいよいよスタートする。
よし子と三重での活動が中心となった取材だ。
それなので、よし子が東京にいる間に教室にもカメラが入る。

今年の夏合宿を撮影することになるけれど、
来年の都美術館での展覧会と連続させて、
新しい希望に満ちた可能性を提示したい。
近いうちにその中身も少し書いてみたいと思っている。
今回は別の話題だ。

これは何度も書いて来たことだし、もういいかなという気もしているけれど、
一度、論点を絞って纏めておきたいと思っていたことだ。

このタイミングであえて書くべきではないかと感じている。

皆さんも新聞やニュース等でご存知だろうが、
出生前診断が開始された。

ダウン症の人たちを取り巻く環境は明らかに悪くなっている。
命の尊厳がここまで否定されて行くことを許してはならない。
守るべきだし、戦うべき時だと思う。
このことに無関心であってはならない。
何が行われつつあるのか、よくよく考えてみる必要がある。

世の中に向けて警告を発することは、分不相応であるし、
僕はなるべくしないようにしてきた。
でも、今はもう黙っている訳にはいかない。
だから、はっきり言いたい。
これは警告として書いておく。

僕自身はダウン症の人たちと生きてきたし、
彼らの内面の深い部分をずっと見てきた。
その立場から、この先どうなって行くのか、予想がつく以上は黙ってはいられない。

問題は大きく2つあると思う。
1つは言うまでもなく、ある人達が生まれてくる権利すら失われて行く可能性だ。
生命が否定されようとしている。
そんなことが許されて良いはずがない。
このことに対しては、繰り返し言うが断固として戦うべきだ。

だが、もっと複雑な問題として、
生命を守ろうとする人達が作り出してしまう問題がある。
僕はこのことはあえて言っておく必要を感じる。
いわば、内部から生まれる問題だ。
ここは出来るだけ多くの人に冷静に考えていただきたい。
そうしなければ、これから僕の言う予言が的中してしまうだろう。

つまり、ダウン症の人たちを守ろうとする人達が、
逆に彼らを傷つけ、壊してしまうことになりかねない。
これはメディアやマスコミ、それにお医者さん達にも多いに責任があると思う。

具体的な例を挙げよう。
テレビ関係がよく取り上げるストーリーがある。
もはや有名なので名前までは言わないが、書道やダンスの活動の紹介の仕方。
「障害があっても、努力して頑張って鍛えれば、人間として認められる」
という筋だ。
そもそも、この考え方自体が無礼この上ないが、
それはおくとしても、これはダウン症の人たちに対してはかなり危険なアプローチだ。
こういうことをメディアが煽ることで、
迷っている保護者達がまた誤った判断をおかす原因になる。
何度も書いてきていることだけど、
彼らにとって最も危険なことは無理や我慢をさせることだ。
これが続くと、その時には結果は現れなくても、
もっと先で必ず結果が出る。確実に。
我慢し過ぎた結果、こころが壊れる。
頑張って成功したストーリーを演出している人達は、
最後の最後まで結果を追うべきだ。
マスコミに言いたいが、もし、取り上げている人達が病んでしまったら、
そこも取材して行くべきだ。
我慢の結果、こうなりました、というところまで報道する責任があると思う。
これは仮定を言っている訳ではない。
いつか、そんな結果が出てしまうと思うから書いている。

ダウン症の人たちを取り巻く人達によく考えていただきたい。
保護者の方達。支援している人達。関わる人達。
頑張って成功するストーリーに踊らせられないように気をつけましょう。
そのストーリーを作っている人達は結果に責任を持ってはくれないのだから。

生命の尊厳を考えよう。
一方では生きることの可能性すら否定されてようとしている。
そして、もう一方では彼らの人権を守るために、
彼らに過剰な努力を強制している。
この2つの行為は実は反対に見えて同じことをしているのだ。

生命体の尊厳とは、その生命に固有のリズムが認められることだ。
そういう意味では健常者の勝手に作り上げた筋書きによって、
本来のリズムを傷つけるのなら、守っているつもりになっていても、
その人達も同罪なのだ。

最近は海外での状況も耳に入るので、おおよそ分かってきたのだが、
ダウン症の人たちに意味のない努力を強制する流れは世界的におきているようだ。

ここで警告したい。
この結果がどうなるのか。誰が責任を取るのか。
彼らのリズムを知らずに、健常者の理屈で勝手に無理させて行けば、
結果は壊れて行くだろう。
この流れが広がって行けば必ずそのような結果が出てくる。
早く気がついて、彼らのリズム、すなわち生命体の尊厳が守られることを願う。

以前に障害者アート(この言葉自体変だが)ブームなるものは消える、
と予告したけれど、
その後に震災や経済の問題もあり予想以上にブーム自体もたいした事にならなかった。
ただ、流れはだいたい予想道理で、少しづつ飽きられて行っている。

よく考えればわかる事なのに、みんなすぐに飛びつくから踊らされる。

今回はしっかり考えて行かなければ、結果はもっとひどい事になるのだから、
関わる人達は真剣に考えるべきだ。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。