2013年2月5日火曜日

全体の地図

明日は雪が降ると言うから、アトリエにつくまでのみんなが心配。

寒さも大分なくなってきて穏やかな日々だ。

よし子のブログで日曜日のアトリエがパワー全開で、
きっと東京でも同じ現象がおきているだろうと書いてあって、
さすがに感じとるなあ、とまったくそのとおりだった。

日曜日は午前中の後半から教室の雰囲気が光をさしたように明るくなった。
みんな良い作品しか描かない。場も素晴らしい。
午後、15分程、外へ出て散歩した。
その時、歩きながら景色を見て感じて、これは午後もかなりいいんじゃ、
と思った訳だけど、午後クラスも別次元。

でも、良い場って何が違うんだろう。
一年に何度か、本当に良い場になる時がある。
その雰囲気はとても言葉では説明出来ない。
この場所だけが何かとてつもないものになって、本当にこれが現実なのだろうか、
というくらいに輝かしい空間が現れる。
それはいつもでたっても謎だ。
やっぱり、そこには何かしら恵みのようなものがあるのではないだろうか。

色んな悩みを持った人達と話すことも多いのだけど、
社会的にも本当に難しい時代になってきたのだろう。
様々な価値観が崩壊して、信じられるものが何もなくなっていくし、
みんな何かしらどこかに不安を抱えざるをえなくなっている。
希望を持つことが難しくなっている。

僕はこれまでずっとダウン症の人達に学んで、
シンプルな生き方に立ち返ることを提案してきた。

今日は少しだけ視点を変えて、
スタッフとして場を見る人間として、
何かこれからの考え方の参考になるような部分がないか考えてみたい。

特に震災以後の世界は不安だけではなく、
どこかに痛みや傷を持って生きている人が多いだろう。

色んな方の話を聞きながらも、僕に言えることは少ない。
僕には場を創るという中から見えてくる経験しかない。
ただ、いつも言うように僕の言う場とは人生の縮図のようなものでもある。

場を見る時の眼差し、視点を今のこの世界の中で保つことが、
一つの打開策とまでは行かなくとも、
なにか少しは不安を軽減してくれるかも知れない。

この前は漫画のことを書く中で距離ということを言った。
この距離というのは、場を見ている時に大切な要素だ。
人との距離、自分との距離、場との距離。
良いものとの距離、悪いものとの距離。
距離感というのは付き合い方とも言える。
あるものはすべて否定出来ないし、消すことは出来ない。
だから、この世の中に存在するものはすべて受け入れるしかない。
受け入れ切れないと感じるなら、距離が近すぎるからだ。
適切な距離をとること。

一言で言えば、今、世界は完全に答えのない道に入っている。
情報はあふれ、何が正しいのか判断がつきにくくなっている。

混乱して迷わない為には、最初から答えがあると思わないこと。
答えがないという状況に慣れることが大切だ。

場の話だけど、制作の場において答えは存在しない。
場には無限の要素があふれている。
現代社会は様々な情報にあふれ、混乱しやすいと書いたが、
場における情報量は実はその比ではない。
こころの動きや想いや、偶然や、ありとあらゆる要素が、
場に影響を与え、場を創っている。
答えがない状況の中で、ほとんど無限の要素がとびかっている。
そこでそれらを感じつつ把握しつつ、混乱しないで良い要素を拾って行く。
そのためには距離が必要だ。
何があっても飛び込んだり飛びついたりしてはいけない。
まずは全体を見渡すこと。
こういってしまうと語弊もあるのだが、あくまで例えで言うなら、
上から見下ろしている視点に少しだけ似ている。
あるいは地図を見るような感覚だ。(現実には僕は地図が苦手なのだけど)

前にすべての人に役割があって、居るべき場所があるから、
自分の存在意義など探さなくてもそこにある、と書いた。
それも、地図の様に全体の中で見えるわけだ。

一人の人のこころの中でも触れて行くと宇宙に繋がるくらい大きなものだ。
でも、場においては一人の人と一体になるわけではない。
いる人全員とある意味で一つになる。
しかもこれは一つに解け合ってしまって渾然一体となるわけではない。
あくまでも違う視点が違うままで行き交っている。
場においてはいくつもの要素が、それぞれ違うままで、
行き来している。
それらを同時に経験しているということが重要だ。
場は動いているから結論は出ない。
絶えずすべての要素を活かす気持ちでいることが大事だ。

今の世界を生きるのには、こういったこころの姿勢が必要な気がする。

様々な不安があり、恐れがあり、悲しみや傷がある。
何よりも世の中全体に対しての不信感がある。
沢山の葛藤があり、多くの情報に埋もれている。
この中から負の要素を完全に消し去ろうとしないことだろう。
こういった状況とどう付き合って行くか、ということが大切だ。
良いものも悪いものも、ちょっとだけ距離をとって見てみよう。
全部の要素が消えてなくなるものでないなら、上手く付き合って行こう。
もし、受け入れられなかったり、上手く付き合えないと感じたら、
対象との距離が近すぎると自覚して、もっと距離をとってみよう。

場を見ている時の視点を地図に例えた。
この地図を見るような眼差しを身につければ、大分、気持ちが楽になると思う。
地図から自分を見ているから、自分が他人より重要になることもない。
自分の扱い方も他人の扱い方も、適切な距離が見つかる。

もちろん、いつも地図だけ見ているわけにはいかない。
僕の場合は地図はぱっと一瞬で見る。そして一瞬しか見ない。
でも、分からなくなったら地図を見れば良い。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。