2015年8月10日月曜日

過ぎて行く夏

夏の制作、無事終了しました。

まだまだ暑いのに、アトリエが終わってしまうと、
何か夏も終わったような気になってしまう。
僕もイサも全力で挑んだ日々だったのでぐったりと言うよりは、
充実感とともに放心している。

みんなの笑顔が忘れられない。
作品も含め、本当に素晴らしい日々だった。

やっぱり制作の場は最高だと思う。

ここまで一人一人の生命が輝く場面を見ていると、
人間が生きてそこに居ることがどれほど凄いことなのか、
そして希有なことなのか、痛感する。

一場面たりとも疎かに出来ない。

みんなが見せてくれたものを、今感じている。

みんな本当にありがとう。
思い合う姿、響き合うリズム。
最高の場と笑顔と輝く作品。

蝉の声が遠くから響く。
この夏も去って行く。

土曜日の夜、花火の音を聴いていた。
体力があったら見に行くのだけど、全力の場の後だったので動けなかった。
どこかで夜空に光っている花火が、確かに見えていた。
ああ、奇麗だなあ、良い夏だなあ、と。
僕達の場は花火みたいだ。
みんなの輝く姿が駆け巡った。
沢山の作品達。

全てが過ぎ去って行く。
切なく悲しいと思う気持ちは大切だ。
その悲しみがあってこそやさしくなれるのだし、
一つ一つを大切に出来る。
そして今この瞬間を噛み締める。
共に居る人達、居てくれる仲間を思う。
決してやり残してはならないのだ。

この夏は全力で駆け抜けた。
みんなの素晴らしさをみんなで感じられた。
僕達は確かに生きていた。

過ぎ去って行く儚さ悲しさと共に、心の奥に刻まれ残って行く何かを知っている。
残してもらえたもの、残してあげられたもの。
それは宝物だ。何より大切なもの。

素敵な時間をありがとう。

また9月に会いましょう。

2015年8月8日土曜日

夏のアトリエも、残すところあと1日。

まだまだ暑い。
でも今日は少し風もあってずいぶん助けられた。

フラボア中目黒店での小さな展示が本日より始まっております。
東京アトリエは夏の制作期間中で僕もまだ展示を見ていません。
早くお伺いしたいと思っています。
今回の企画を進めて下さったデザイナーの佐々木春樹さんは、
本当に真摯な方で作品へ向ける眼差しや、
アトリエの活動への共感は、確かで強い方だと、
これまでお仕事をご一緒しながら感じて来ました。
とても信頼している方です。
深い部分で響き合える方でもあります。
今回、額は簡易なものを使っているので、
若干反射したりとか、作品を鑑賞するのにベストとは言えませんが、
これまでの展示とはまた違った視点で、新しい作品をご覧頂けるかと思います。

画面全体を一色の濃淡だけで表現されている作品や、
他の数枚のちょっと渋めの作品はこれまで外へ出ていないものです。
こういう作品を選ぶあたりがさすがは佐々木さんと思いますが、
ここで僕の個人的な感想は控えた方が良いでしょう。
お時間のある方は是非、原画をご覧下さい。

さっき、少しだけ雨が降った。
静かな、とても静かな夜。
蝉の声が聴こえ始めたのは最近で、これだけはちょっと遅かったかな。
こんなに暑い時に、と思う部分もあったが、
夏の制作を今年もすることにして良かったと思っている。
いつの間にか、明日が最終日となってしまった。
まだ夏は続いて行くのだけど、僕にとってはこの制作期間が夏の中心だった。
連日、とてもとても良い時間だったばかりでなく、
普段の制作時間に出来なかったことが出来たり、
普段見られなかった作品が生まれたりと、日々新たな現場があった。
みんなの存在がやっぱり素晴らしいなあ、と思える時間が流れた。
嬉しいこともいっぱいあった。
勿論、気になっている人もいるし、ちょっと今後が心配な人も居る。
ずっとそこと向き合い続けている人、良くなったりまた辛くなったり、
行き来している人も居る。
でも、こうして場の中でみんなに役割があって、
みんなが認め合える、そして一人一人が輝くという場面。
響き合えることの素晴らしさ、楽しさを実感する。
この世の中でこの場所だけが、という作家も居る。
僕だってそうなのかもしれない。
だからこそ、ここで内面的な意味でだけど、取り戻せること、
人生の逆転ができることが嬉しい。

せっかく生まれて来たのだから、深い実感の中で、良かった素晴らしかった、
と肯定したいし、一緒に居られる人達を深く愛したいと思う。
それが出来るということを僕達はここで学んで来た。

夏の制作。とてもとても素晴らしかった。
まだ明日、1日ある。
この夏を精一杯生きて行こう。

2015年8月6日木曜日

夏の制作もあと少し

パソコンのあるこの部屋はクーラーも効かず、
ブログを更新しようと思っても頭がまわらない。

暑くて暑くて、という夏だけど、これも過ぎ去ってしまえば、
この気候と共に思い出す懐かしい場面になるだろう。

夏の制作では思った以上に、
参加してくれている作家達の集中力が持続している。

最高の舞台で、最強のメンバーと、
感覚をフルに使って響き合って行ける幸せ。

残すところあと3日となってしまった。
みんなで楽しんで行きたい。

こんな夏だったよ、と。
一人一人の笑顔と輝く作品と共有した時間が、
深い深い大切な記憶となって、細胞の芯に生きて行くような、
そんな現場でありたいと思う。

2015年8月4日火曜日

展示あります。

まずはお知らせです。
今年もフラボアさんとの企画で、
アトリエの作家達の作品がデザインに使用されております。
コラボアイテムの発売が8月8日となります。
合わせてフラボア中目黒店にて、原画の展示を行います。
展示期間は8月8日〜9月27日となります。
デザインの雰囲気と合わせて、
作品の選定と展示はデザイナーの佐々木春樹さんが行っております。
これまで展覧会等に出ていない作品が数点あります。
この機会にご覧頂きたいと思います。
10点の小さな展示ですが、かなり良い作品が選ばれています。
アトリエの作品を何度もご覧になっている方でも、
おお、こういうのもあるのか、と感じて頂けるかも知れません。

東京アトリエは現在、夏の制作期間中です。
毎日、本当に純度の高い作品が生まれています。

ここ数日も最高の現場があって、
ここだけ別世界のようだと感じていた。
本当にそれは作家もスタッフも共有している実感で、
色々あるけど、この時間があるしな、とみんなで感じられる喜び。

現実逃避や誤摩化しではない、本当の意味での輝きをこの場で実現して行く。
人に肯定的な感情を与えること、幸せを噛み締められること、
そういうもの以外は信じない。

深い実感を持っての幸せとは、深く入って行かなければ得られないものだと思う。

その場にいることには強いリアリティーや迫力が無ければならない。
そうでなければその場で誰も信じないだろう。

何度も書いて来たが命懸けでなければ、人は輝かない。

缶詰の魚の油と醤油の汁。
あれを呑むと何と言うか、幸せな気分になる。
子供の頃、水商売をしていた母が3時とか4時に帰って来て、
一緒に缶詰を何度か食べたことがあった。
親子としての感情はあんまり強く持てないまま大人になってしまったけれど、
あの時間は今となっては大切な感触を残している。
何かあたたかい感じ。

小さい頃は、大人の感情から距離を置くことで身を守って来た部分もある。
兄とだったか、妹とだったか、母が一緒に居て、
魚を食べていて、食べ終わると、目を瞑って、と母が言う。
今から魔法をかけるから、と。
目を開けると食べてしまったはずの魚がまた出来ている。
片面を食べてまた片面を裏っ返したのだ。
僕はそれを見ていて、素直だったから、魔法をかければいくらでも食べられる、
と思ってしまった。それにいつでもお腹がすいていたから。
「もう一回、魔法使ってよ。」そう言った瞬間だった。
母の怒鳴り声が響いた。裏っ返しただけに決まっているでしょ、
そんなに食べるものがある訳無いでしょ、と。
あの頃は母も切羽詰まった生活で不安定だったのだろう。

まだ父が金沢にいた頃、離婚していたので家は違うところにあった。
大きな赤い石のネックレスがあって、
母は僕に楽しそうにそれを見せてくれて、これがルビーなんだと言った。
この時も僕は何の悪気も無く、父のところへ遊びに行って、
母がルビーを持っていると話すと「なんなのはガラス玉に決まっているじゃないか」
と父に言われたのだ。
バカだなあと思うのだがそこでも僕はまた悪気なしに、
母に「あれ、ガラス玉だってね」と言ってしまった。
ここでも怒鳴り声が響き、何度かそんなことあって、
僕は大人に何か言う時はよほど気をつけるようになった。

今となっては懐かしい。
良いことなんて何も無かったはずなのに、
それに別にそんなことも何も傷にもならなかったくらいに、
家族のことなんか、故郷のことなんか、どうだって良かったのに。
ふとした時に、缶詰の記憶が甦って来たりする。
案外あたたかい時間もあったのではないか、とか。

僕にとっては全ての時間が大切な記憶だ。
どんなにどん底にいようと、不幸や悲しみを見ていようと、
そんな全てを、もっともっと奥にある輝きが肯定してくれる。

そういうことを教えてくれたのが場だったと思う。

だから場に立つということがどれほど幸せなことなのか、知っている。
その場に居る人、いや居てくれる人が、その瞬間、笑ってくれる、
もっと深いところから、喜びを感じてくれる、
みんながそういうものを共有出来る、それが場なのだと思う。

一つの場が成立していることは奇跡のようなものだ。

僕達は大切に大切にその場に立つ。
いつまでも一人一人のあたたかい記憶に繋がるように。
そこで見た景色によって、他の何もかもが肯定出来るように、
いつかは全てが掛け替えのない輝きを持って、
そこに在ることに気がつくように。
生命や創造性の深淵が覗けるように。

せっかく生まれて来たのだから。

どんなに酷い時代の醜い現実が迫って来ても、
僕達はこの景色を忘れてはならない。思い出そう。
人間は本来、こんなに輝いているのだということを。

書いている人

アトリエ・エレマン・プレザン東京を佐藤よし子と 夫婦で運営。 多摩美術大学芸術人類学研究所特別研究員。